11118日,1×8イベントの前には,渋谷にある青山劇場で「新感線プロデュース いのうえ歌舞伎☆號『IZO』」を観てまいりました。

幕末の「人斬り以蔵」こと岡田以蔵にスポットを当てたお話。
前にNACSの『LOOSER』で,この頃のことを全く知らないと書きましたが,やはりこのヒトのことも知りません。
そしてそのまま観に行ってしまいました。

心配いらず。
なかなかわかりやすいお話のつくりで,何も知らなくても大丈夫でした。
以蔵というヒトの人生,幕末に「日本を変えるんだ!」とただ走った人たちの生き様を中心に描かれたお話。
なんだか寂しく哀しいお話。
何度も涙をこらえました。

たくさんのセット,まわり舞台,映像や影,音も多用していて。
役者さんたちも皆良く。
オープニングからラストまで,長い作品ではありますが,その世界に引き込む迫力を持ったおもしろい作品。
幕末に実在した土佐の足軽で"人斬り以蔵"として時代を震撼させた岡田以蔵を、冷酷なただの暗殺者としてではなく、人間味の溢れるキャラクターとして森田剛が描き出す! (DiPPS)
なるほど,冷酷なただの暗殺者。
まあ人斬りと呼ばれるような人たちは,そういう風に思われるものでしょうなあ。
それでも,その人もひとりの人間なワケで。

「人斬り」という事実はあるので,「人間味溢れる」というコトバと合うのかわかりませんが,ただこの以蔵はちっともただ冷酷な人間なのではなく。
故郷を出て,天命だと人を斬り,でも人を斬るだけの日々だったワケではなくお酒も女もあって。
多くの人との出会いや,抱えていたいろいろな想い・・・なぜ以蔵がそういう人生を歩んだのか。
そんなところを描いた作品。

以蔵もまた,この時代に生まれてしまったばかりに,哀しい人生を送ったヒトではないでしょうか。
もう数年遅かったり,違う場所だったり,環境が違ったら・・・。

「オレに斬らせろー!」と刀を振りまわすシーンがあって。
急に涙が出てきました。
突然感情移入してしまったのですなあ。
このヒトを見ているのが苦しい。

ただ「自分の刀で時代を変えるんだ」と信じ。
おミツがあんなに言うのに,それでも信じて。
純粋なヒトなのです,以蔵は。

パンフレットの山内さんのインタビューがわかりやすかったです。
以蔵は「人間1回目」だろうという話。
「覚えたばかりの言葉を使うな!」と怒られるシーンがあったりして,以蔵はホントにただ「犬」だったのですなあ。

もう,哀しいんだ。
なんとかして以蔵を,違う世界に連れて行ってあげたい。
違う見方を教えてあげたい。
刀を持って暴れている以蔵が切なくてたまらないのです。

でもラストはそのまま,切ないままは終わりません。
切ないのは切ないのだけど,涙は出るのだけど。

でも以蔵もただの「犬」のままではなく,それなりに想いもあるし,また新しいヒトたちとの出会いもあり。

たぶん,ちょっとだけ「犬」じゃなくなった。
以蔵なりに何かを悟ったはず。

だけど,行き(生き)方はひとつしかなかった。
環境もまだ変わらなかった。
そういう時代。

そして以蔵は「人斬り以蔵」としての人生を終えた。

以蔵というヒトが愛しく感じる作品でした。

そして,以蔵を描きつつ,幕末の時代の流れも描いているこの作品。

ま,知らないのでね,ところどころ理解不能なまま,場面が変わることはありました。
口だけで説明されても・・・と。
その辺はたぶん以蔵と一緒に,わからないけどとりあえずマズイのだ!とか,その程度の理解で。
それでもわりと大丈夫。

だってこれは以蔵の話。
そして,ひとつのことを信じて走るヒトたちの話。
動かすのではなく,動かされるヒトたちの話。

幕末という時代の一部を生きた人たちのお話でした。
このヒトたちがいなければ,今はないのでしょうなあ。

以蔵は,見事に犬でした。
「なんちゃーない」ってのがすごく耳に残っています。
おミツも,聞きやすい声で表情も台詞回しもよく,以蔵との組み合わせもピッタリでしたなあ。
ちょっと低めの声が使えるのはイイですな。

そして新兵衛を演じたのは山内さんで。
このヒト目当てでしたが,イイ役でございました。
なんというか,とにかく,なんてさわやかなんだー!とそんな感じ。
髪型といい,役柄といい,好青年でございました。
目がデカイのでね,侍姿はちと笑えるのですが。

龍馬も,これまた変わった龍馬さん。
わりと難しい顔をしているキャラクターの多い中で,和ませキャラとして良かったです。

きりがないのでこの辺で。
以蔵に強く感情移入してしまうと,以蔵側から見ると,どのヒトもなんだかなーという人物なのですが,それぞれ皆また幕末と言う時代に生きたヒトたちなワケで。
それぞれの想いがあるのですよなあ。

実際にいたヒトたちなのだと思うと,それもまたなんだか妙な気持ちになるものです。
しかもたった100年ちょっと前のお話。
ぐるぐるといろんな想いが巡るのです。

さて。
こういう場面転換の多い舞台は,なかなか置いてかれちゃったりして難しいことも多いのですが。
この作品は良かったです。

わかりやすい。

音の使い方も,役者が出ない映像でのシーンも,なかなかわかりやすく。
長い長いお話を上手に進めている作品で。
3時間半ほどの舞台ですが,最初から最後までしっかり楽しめました。

お金使って作りこんでいるなあと。

そうそう,ホントに血しぶきが飛んでるのは凄かったですなあ。
それでもぎりぎりグロくなくて。(間近で観たらまた違うのでしょうけど。)

それから,とあるヒトがボロボロの格好で出てくるのですが,そのとき身体を叩くとホコリがぶわーっと出まして。
この演出も笑えるんだけど,その前にいたお客さんが必死に振り払っているのがふと見えて,余計に笑えました。

12時半開演で,終わったのは16時5分過ぎ。
このあと,16時半からのイベントのために銀座へ走りました。
長い長い午後でしたな。

そうそう,青山劇場は座席の間が狭すぎてキツイので,この作品をもう一度観るには最前列とかじゃないと耐えられないかも。
次のイベントが広めの座りでよかったです。

ちなみにこの日はオジーがいましたぜ。