今年観た・・・ではないけれど,『泥棒役者』と同じような感覚で楽しめる舞台作品があります。
北海道の役者さんたちが作ったロックメンの『アルプス』。
わりと好きな作品。

とある山小屋が舞台。
夏なのに,吹雪いてしまったアルプス。
遭難した登山家たちが,山小屋に集まってきます。
人がいた気配はあるけれど,管理人など人の姿が見えない山小屋。

暖炉はあるけれど,火を熾す手段がなく,寒い。
ここは何?
どうする?
5人のいろいろな登山家が登場して,時間が過ぎていきます。
人の勘違いとかそういう設定ではなく,しかもSFも登場しちゃうという,全然違う話ではあるんだけど。
ワンシチュエーションで,深い物語でもなく,それぞれの人生や価値観を持ったおかしな人たちがいろいろな展開を生んでいく。
話しているうちにとか,ちょっとした物に触れてみちゃったらとか,時間が過ぎると・・・とか。
いつまでも,そしてどんな展開でも生み出されそうなシチュエーション。

壮大な物語を作っていくのではなく,そこで生み出されるどうでもイイこと,日常のちょっとしたやりとりのようなことを,山小屋の中でバタバタと繰り広げる人たちの姿がおもしろいです。

見知らぬ者同士が集まってくる冒頭。
見知らぬ者同士,お互いを探りあいながら会話をしていく。
探りあいと言いながらも,初っ端から飛ばしていて,バカバカしいやり取りをずっとしている。

たとえばこんな会話。
A「ライターは持ってないが,チャッカマンならあるぞ。」
B「ライターじゃないですか!」
A「・・・これ見て君は何と言う?ライターか?」
C「チャッカマンです。」
A「だろ?これ見てライターだというやつはまずいない。私,間違ってない。」

たとえばこんなシーン。
修行で山ごもり中の格闘家が登場し,寒さを紛らすために組み手を提案する。
さらっと流すかと思えば,いきなり本気モードでやり合う。

これ,何も考えずに見られるバカバカしいモノをやりたい・・・と作られたお芝居で。
『別に全く「訴えかける」とか「何かを感じ取って欲しい」とか思って造ってません。』とのこと。

じゃあものすごく気楽にめちゃくちゃに造られて突っ走っているのかというと,もちろんそんなワケはなく。
バカバカしいけど,ちゃんと中身もあって。
笑ったり暖まったり,ウルッとしたりして,話が進んでいく。

山男が登場しちゃったり,SF話になっちゃったり。

でも,SF話と言っても,そこがメインじゃない。
それを背景設定として,やっぱりメインは山小屋内でバタバタとする人たち。
人間じゃないヤツもでてくるけど,そいつが人間じゃないというおもしろさは持ちつつ,結局は人間同士の,山小屋に集まった人同士のやりとりのお話。
イエティはいいスパイスだけど,キャラの濃い登場人物のひとりなのですな。

(作った人の人柄が出ている,その人の頭の中そのままのシチュエーションってことだろうなあ・・・なんて。)

後半はちょっと,物語要素が大きくなってて。
でも,そんなにおもーくなく,なんかわかるなあと観ている方も同じような気持ちで,自然にあぁ・・・と感じる。(ラストも!)

『泥棒役者』ほど爆笑が続くのでもなく,クスクスッとした笑いが多いのですが,頭カラッポにしてただそこにいる人たちを笑いながら見ていられる面白い作品です。